人生のステージに応じた壁と井口祐未

これは SHIROBAKO Advent Calendar 2019 22 日目の記事です。

SHIROBAKO とは一体何なのか。この問いに対して 10日目の記事 では、 「辿り着きたい場所」に向かっていく物語 という一つの仮説にたどり着いていました。答えは無数にありそうですが、それを抽象化した結果が SHIROBAKO は人生 なのだと思います。

それは SHIROBAKO に登場するストーリー/キャラクターが、誰しもの過去/現在/未来の人生と重なる部分があるからです。今回は数ある SHIROBAKO と自分の人生の重なりの中でも、井口祐未のストーリーについて振り返ってみようと思います。

ちゃぶだい返し

『ちゃぶだい返し』は 16話のタイトルであり、ストーリーとしてはキャラクターデザインを担当している井口のデザインに対して原作者からダメ出しを受け、修正を繰り返していくうちに井口が追い詰められていく話です。これまで武蔵野アニメーションのアニメーターの中ではエース級の存在であった井口から、「もう、どう直していいか分かんなくなっちゃって…」や「見えない…」などかなり弱気な発言が出てきます。

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©「SHIROBAKO」製作委員会

ところで、 SHIROBAKO が放送されていた 2014年10月 - 2015年3月は、自分は大学4年でちょうど卒業研究を行っていた時期でした。そしてリアルタイムで『ちゃぶだい返し』を観たとき、「あ、これ完全に自分だ」と思いました。

原作者からのダメ出しは、「何かダメ」レベルの非常に抽象的なものです。これに対して、宮森をはじめ武蔵野アニメーションの面々は修正案を固めることが出来ず、井口も修正の方向性が定まっていないことから泥沼にはまっていきます。

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©「SHIROBAKO」製作委員会

自分も研究活動における指導教員との打ち合わせで、どう進んでいいか分からない抽象的な指摘を受けて、完全に方向性を見失っていました。(これは今思うとその時の知識と経験不足が大きいです)

同じ研究室で大学院への進学も決まっていましたが、本当に辞めることを考えるほど思い詰まっていました。

SHIROBAKO においては、井口にとって先輩アニメーターである小笠原のフォローにより、原作者との合意を得ることができるキャラクターデザインを成し遂げます。自分はそのような感動的なストーリーがあったわけではないですが、SHIROBAKO のこの話を心の拠り所にしてとりあえず続けることができました。そして、大学院では根本的に研究テーマを変更することになり、今ではその研究分野の専門性を活かした仕事をすることが出来ています。SHIROBAKO が無ければ、今自分は何をしていたのかを考えると、少し怖いものがあります。

ステージに応じた壁がある

そしてこの話で分かることは、SHIROBAKO ではステージに応じた乗り越えなければならない壁が描かれていることです。

井口はそれまで武蔵野アニメーションのエース級のアニメーターとして描かれていました。2話では監督の急な作画の変更に対応し、8話ではスピードとクオリティの狭間で悩む安原絵麻に対して的確なアドバイスをするなど絶対的な存在でした。

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©「SHIROBAKO」製作委員会

そんな井口でも、キャラクターデザインという新しいステージに入ると、自分を見失い一人では解決できない状況に陥ることが描かれています。主要キャラクター五人ではない、井口以外に対しても多種多様なエピソードが描かれていて、そこには各々の人生のステージにおける様々なエピソードがあります。だからこそ、誰しもの人生の一部分と重なるところがあるのです。

あなたはどの話と重なりますか?

これからも人生において、また SHIROBAKO と重なるような出来事があって、その度に僕は SHIROBAKO を観るのでしょう。(劇場版もありますね)

もう2019年も終わりですね。どんな一年だったでしょうか。どんな話と重なりがあったでしょうか。一年の振り返りも兼ねて SHIROBAKO を観てみるのはいかがでしょうか。また、新しい重なるストーリー/キャラクターを見つけることができるかもしれませんね。